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サッカー解説者・川添孝一 〜最終回〜

【最終回 日本サッカーの育成事情】

指導者や両親に良質な情報を届けることも重要


 インタビュー企画もいよいよ最終回! 『なでしこジャパン』『サムライブルー』と続き、ラストを飾るテーマは『日本サッカーの育成』。JFAが掲げる「2015年までに世界トップ10入り」「2050年までにワールドカップ制覇」という目標を達成するには、将来を担う子どもの育成は外せない。そこで、サッカー解説者として活動する傍ら、指導者としても後進の育成にあたっている川添孝一氏に、いまのリアルな育成の現場事情を語ってもらった。

——帝京高校時代の教えって、どんなものだったんですか?

「とにかくシンプルでしたよ。日々のトレーニングで、(高校サッカー)選手権の準決勝や決勝を戦うための練習というか、5試合目でパンクするような練習はしないし、一番おいしいところで最高のパフォーマンスができるトレーニングをやっていました。帝京の伝統です(笑)。優勝するための練習をしているし、一二回戦がよくても、次の試合で負けたら何にもならない。よくあるじゃないですか、大物食いしたけど次で負けちゃって『おしかったね』みたいな」

——伝統的に勝者のメンタリティというか、決勝戦まで進んで勝つ練習をしているんですね。

「日々の練習がそうなっていますから、連戦で5試合、6試合目のための。だから5倍、6倍動かないといけない。運良くグランドが狭かったから、ほかのチームが1回触るところを、『ウチらは5回触らないといけない』と古沼監督から言われていました。『倍じゃ、優勝できない』って、そういうところでは厳しかったです。だから、優勝するのは必然で、当たり前っていう雰囲気でした」

——人間育成という点でどうでしたか?

「そこは『監督』というより『先生』という感じでしたね。引き出しの数は豊富でしたし、オシムと同じようなことを言っていました。実は、オシムも古沼先生のことを気に入っていたみたいで、交流もあったみたいです」

——オシムさんがよく言っていました。指導者の育成も必要だと。

「現実的には、まだボランティアのような方もいますし、難しい問題です。子どもが監督やコーチに質問をすると、『もうこのへんで勘弁して!』とかもあるだろうし」

——今日教えられていたグランドでは、ほかのチームが試合をしていました。でも11人制で、確か今年から全日本少年サッカー大会が8人制になったと思うのですが…

「(8人制など)情報はしっかり各都道府県の協会に届いていると思います。ただ末端レベルの現場まで、すぐに行き届くのは難しい部分もあります。8人制については、いい点も悪い点も両方あります。いい点で言えば、ゲームの中でタッチ数が多くなる。悪い点で言えば、部員が多いチームの子どもは試合に参加できる人数が減ってしまった」

——先ほど、ボランティアという話がありましたが、ライセンスは取得されているんですか?

「Jリーグの下部組織は確実に取っています。ただ末端レベルまではどうなんでしょうか…ライセンスの取得についても、数回の講習会で各コーチの疑問などが解消できるとはなかなか思えません。子どもはそれを実践できない監督やコーチを見て、『なんだよ、わからないじゃん』と感じるだろうし。それでも、サッカー界はほかのスポーツに比べて進んでいますし、かなりの努力をしています」

——現場をのぞいていると、暑いなか両親が子どもに熱い視線を送っています。

「両親が一番熱心ですよ。私の顔を見て『ウチの子に教えてくれたらいいのに…』みたいな視線をいつも感じますから(苦笑)」

——指導者や両親にとって、いまJFAや先進国が推進しているようなサッカーの育成情報は必要ですか?

「それはそう思いますね。指導者は、特に必要としていると思います」

——Jリーグも登録チームが増えて、プロの数も増えていますしね。先ほどの8人制の話ですが、Jリーグの下部組織以外の末端のクラブにJFA=日本サッカー協会の意向が伝わり切れていないことも多いんですかね?

「世界的に見てもサッカー界の流れがそうなっていますし、それに合わせたり、目指したりして行動しても結果として伝わり切れていない部分もある…それも仕方ないことだと思います。人数が多いチームだと補欠の人数が増えちゃう。(コートが狭くなるから)攻めたらすぐ守備と切り替えのスピードも違う。

 だけど、教える内容が変わった点も含めてJFAも、指導者の皆さんも毎日最大限に努力をしています。いまも昔も高校サッカーなどを支えてきた、支えている指導者の方たちは本当にすばらしいですよ、自分の時間を削って子どもたちにすべてを捧げていますから」

——私も教えを受けているので本当に頭があがりません。確かに、8人制はリスクやチャンスの回数が圧倒的に増えます。現状、出場選手が減った対応として、例えば、強豪クラブが2チーム制にするなど具体的に対策をしている状況はあるんでしょうか?

「きっと、あると思います。そうしないと不公平になるし、選手も両親にも不満がたまりますから」

——昔から小学校と高校は『育成』がしっかりしていて、中学校が改善のポイントと言われています。野洲高校の山本監督はクラブチームを作って、中学生年代から指導して高校へ吸い上げています。よく『フライング』と発言されていますが、そういう形をとるような指導は増えてきてるのでしょうか?

「やっている指導者もいるんでしょうが、希ですよね。高校サッカーで強いところは『自分たちで作って』というのはあるかもしれません。正直、学校問題は難しいですよね。でも事実、南アフリカ大会に出場した選手はまだまだ高校サッカー上がりの選手が多い。これが現実です」

——クラブチームに入ると『よく選手のプレーレベルが平均化する』とメディアでも取り上げられています。

「どうでしょう、それは…。最近のヴェルディユースなんかを見ていると、育成の現場は変わったと思いますよ。体育界系で、かなり激しい言葉も飛び交っています。それについては、各クラブで試行錯誤して進んでいると思います」

——育成の現場で言えば、まだまだ課題は多いですか? JFA=日本サッカー協会は、2015年までに世界トップ10入りすることを目標にしていますが…

「『なでしこジャパン』は世界チャンピオンになっていますし、一概に『まだまだ!』とは断言できないですよね。『どうするのか?』というのはありますけど」

——現状、育成の大きな問題点って何だと感じますか?

「中学校問題もそうですけど、全国各地にクラブチームがたくさんないとか、練習するグランドがないとかいっぱいあります。でも、選手がコーチを選べないというのはあるかもしれない。そういう意味で成長の足止めしている部分もきっとありますよね。結局、『いい選手の条件って、いいコーチに出会えるか』みたいなことも大きいですから」

——いまで言えば、運も大きい?

「選べる状況にないですから。鹿島アントラーズに本田泰人っていたじゃないですか、日本代表にも入っていた…。全中の大会が岐阜であって、帝京高校の古沼先生が元名古屋グランパスの森山泰行を見に行ったらしいんですけど、隣で本田が福岡のチームで試合をしていて、彼のお父さんが『あっ、古沼先生ですよね?』って、スポーツ新聞に電話番号を書いてもらって、ウチの息子がココで試合しているから見てって電話をかけた。その後、古沼先生がおもしろいですねって帝京に呼んだ」

——人材の発見ってそんな部分もありますよね(笑)

「本当にそう(笑)」

——私が小学校の時は、基本的な技術の練習ばかりで、いまの子どものように戦術とか動き方とか、当時で言えば試合で使える応用編みたいなものを教えてもらった記憶がありません。うまい人のプレーを見るのが一番早いようにも感じます。

「そういう面もあるけど、指導者の『伝える言葉』もとても大切です。うまくプレーできない子どもをどれだけ我慢強く指導してあげられるか」

——スポーツは勝負の世界です。そういう勝ち負けはリアルに分かった方がいいと思いますか?

「僕は、子どもの間は勝ち負けと言うより、楽しくできればいいかなと思います。その子にとってよければいいかなと。もちろん、やるからには勝たなきゃいけないって言うのはありますけど。今日なんかも幼稚園児の指導だったので、一緒にプレーする時は『男と男の勝負だからな』って(笑)。でも、子どもって『アイツの時はなんで手加減するの?』ってすぐ見破るしね、難しいですよ(苦笑)」

——最後に、いまの子どもは『プロになりたい』と、夢を持って楽しんでいますか?

「当然、あると思いますよ。どの子にも、そういう気持ちを持ってもらいたいと願っています(笑)」


川添孝一川添 孝一(かわぞえ こういち)
1961年7月4日生まれ。鹿児島県出身。
1980〜1985三菱重工業サッカー部/ポジション FW
帝京高校時代の1979年に、名取篤(元日本代表選手)らと全国高等学校サッカー選手権大会に出場して優勝。5ゴールを挙げて得点王に輝く。卒業後は名取と共に、日本サッカーリーグ1部の三菱重工業サッカー部(現浦和レッドダイヤモンズ)でプレーをするが、1985年に24歳で現役を引退。その後は高校時代からの友人である木梨憲武の誘いもあり、サッカー解説者などメディアで幅広く活躍。指導者として後進の育成にも積極的にあたっている

取材・文=木之下 潤(Kinoshita Jun)

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