Interview
【第一回 ゴールデンエイジの重要性】
▼正しい動きとその幅を広げることがその後のサッカー人生につながる!
『 Players First 』を合い言葉に、JFA=日本サッカー協会が注力している責務の1つは、12歳以下の子どもの育成とそこに関わる指導者の養成である。単に12歳以下と言っても、幼稚園や小学生の子どもは身長など体の大きさが異なり、監督とコーチが年齢や体格を見定め、それぞれに気の利いたアドバイスを必要とする。そのためには経験はもちろん、『なぜ、このトレーニングをやるのか?』という理由を選手に理解させることが大切であり、チームや選手の状況によっては、その理由を導き出した理論をわかりやすく伝えることも重要だ。指導者は、子どもたちの『なぜ?』を感じとり、それを解決しながら日々のトレーニングを積み重ねなければならない。
では、ジュニア~ユース世代は『どの年齢の時に、どのようなトレーニングをすればよいのか?』 U-15・16・17日本代表のアスレティックトレーナーを務めた経験を持つ『山本晃永』氏に、フィジカルの観点からインタビューを試みた。体の発育・発達が著しいこの年代は、どのようにカテゴライズされ、どういった方向性でトレーニングをすべきか。特に12歳以下のサッカー選手は、体が大きくなる中で『何を知り、何を伸ばさなければいけないのか?』 3回連続特集として、山本氏に詳しく伺ったので、ぜひご一読いただきたい。
——サッカーでは、ジュニア世代の選手を『ゴールデンエイジ』と呼び、特に育成に力を入れています。フィジカル的な面からその理由を教えてください。
体の発育・発達過程の中で『ゴールデンエイジ』は9〜12歳ぐらいを指します。その前にも、幼稚園や小学校低学年ぐらいの5〜8歳までを『プレ・ゴールデンエイジ』と言い、中学校年代の13〜15歳を『ポスト・ゴールデンエイジ』という形で区切ります。高校生年代の16〜18歳になると『インディペンデントエイジ』といって独立していく世代に突入します。『何を理由にそうわけるのか?』と言うと、神経系がものすごく発育・発達する段階だということです。ゴールデンエイジと名の付く年代は、『いかに神経を活性化させるか?』といったテーマでトレーニングをやります。それは技術的な点でも、我々フィジカルという点でもそうです。
——もう少し具体的には?
『神経系がどういうものか?』というと…、例えば、目・耳・鼻・触覚(触ること)などの感覚器からの情報が脳に伝わり、脳の中で命令を出して、筋肉にその命令を伝え、動作ができていく、あるいは技術ができていくという流れなんです。こういった『インプット=脳に入ってくる神経』と『中枢神経である脳の下した判断や命令を筋肉に伝える=アウトプット』を活性化するということが大切です。
脳の中でしっかりと正しい指令を出して、それを正しく筋肉に伝えいく『アウトプット』は、人間は骨も筋肉も作りはみんな一緒ですから、正しい動き方、つまり合理性のある動き方はある程度決まっている。だからゴールデンエイジ世代の時期に、『正しいフォームを教えてあげること』と『その正しさの中の幅を広げてあげること』が必要です。ゆっくりとか素早くとか、強くとか弱くとか、キャパシティを広げてあげる。テーマとしては、正しいフォーム、正しい動きを作ること、そこができたらその幅を広げてあげる形になります。
また、サッカーは『インプット』もすごく大事なスポーツです。ゲームの中で自分の状況や相手を見ながら、あるいは味方とコミュニケーションしながら聴覚という感覚器で周囲の声に耳を傾けながら、そこを適切な動作に結びつけるインプットもとても大切な作業になる。対人動作の中では『相手と駆け引き』をしながら動くということも加わってきます。
止まれないためにディフェンスに抜かれることがあるんですが、トレーニングの中で、そこには『どこで止まるんだろう?』という判断が伴った動きを作ってあげないといけない。対人トレーニングで人数が増えれば、コミュニケーションを図りながら守ることも必要になる。こういう『インプット』と先ほど言った『アウトプット』の2つの観点から、神経系のトレーニングを指導するのが我々の使命です。
——JFAがジュニア世代を『U-6・8・10・12』とカテゴライズしているのは、神経系の動作が関連しているからですか?
はい、そういう見方もあると思いますし、日本の学校教育は6学年で、2年ごとに分けるのがトレーニングの構成としてやりやすい。例えば、4年生と6年生の大きい子を比べたら全然体の大きさが違います。あと1年生と3年生もものすごく違う。だから『6→8→10』と2年刻みで考えて、それでU-12という区分けになる。もちろん神経系のトレーニングから見ても『6→8→10→12』とすることでトレーニングの方向性とか、コンセプトとか、この年代だからこういうアプローチをしなきゃいけないとか、目安にしやすい。
ゴールデンエイジは『即座に習得できる年代』とよく言われます。また、その前のポスト・ゴールデンエイジは、習得をさせるために繰り返しやらせるよりも『より多くのことを体験させる年代』というのがサッカー界の常識です。まず、この年代は修正させるよりもたくさん体験させる。ゴールデンエイジ年代になったら1つ1つを修正していこうと。6・8は多くの体験をさせて、10・12は習得に重きを置きます。
フィジカルトレーニングも6・8世代では、いろんな要素が入った動きを楽しくやらせてあげる。楽しくないと、あきちゃうんで(笑)。10・12になったら一人一人ちゃんと見て評価をしてあげます。選手に『何が悪かったか?』を気づかせ、コミュニケーションをとりながら直していく段階です。
——サッカーの指導者養成でよく登場する『スキャモンの発育発達曲線』のグラフを参考にしているからですか? やはり理論的なアプローチから、ジュニア~ユース年代のトレーニングも1つ1つやっていく必要があると?
そうですね。このグラフは、1930年代の海外の文献です。僕も仕事で、育成年代の子どもを連れて、よく海外に行くことがあります。日本の子どもは晩熟型なんですよね。だから必ずしも、『スキャモンの発育発達曲線』が当てはまるわけではない。ただこれを基本に、ある程度2年ごとに分けて『個』を見る作業もすごく大事になってきます。
高校生でも中学生ぐらいの体の子もいますし、小学生でも中学生のように体の大きな子もいます。しっかりと基本ラインを頭に入れつつ、その前後もお互いオーバーラップしながら指導していかないといけない。
——山本さんの中で、ジュニア~ユース年代のどの時期に重きを置いてトレーニングをしたらいいとお考えですか? その後のサッカー人生に生きるというか、ポイントになるというか…
んー、やっぱり『ゴールデンエイジ』が大切だと思います。私も高校生やプロを指導する中で『この前にもっとやるべきことがあるよな?』、じゃあ中学生を教えて『もっと前のゴールデンエイジにやらなきゃいけないことがあるな』ってどんどん若い年代を指導し始めて。その幅が広がる過程で気づきました。
どこのカテゴリーが一番ということは難しいですね。カテゴリーごとに、やっておかなければならないことがあって。おそらく『プレ・ゴールデンエイジ』の体験も、現代の子どもはなかなか外遊びの環境がないのでたくさんやらせとかなきゃいけない。『ゴールデンエイジ』の習得もすごく必要です。そう考えると、今後を意識すれば、各年代で積み重ねていくものなので。
でも『習得』はマスターしなければ、中学生になってケガをしやすい体になったりする。『ゴールデンエイジ』というのは、中学生年代へ移る準備期間でスポーツ障害を予防できる体の使い方を学ぶ、重要なターニングポイントになります。そう考えると、『習得』という時期は大切だと思います。スポーツ障害につながるという観点でいうと。
——少し話が前後しますが、プレからインディペンデントの説明を詳しくお願いできますか?
9〜12歳は『ゴールデンエイジ』です。スキャモンのグラフでいうと、神経が成人に近いところまで発達しています。脳科学などほかの文献では、6歳前後で到達するものもあります。一般的な見方で言えば、9〜12歳と言われています。
『プレ・ゴールデンエイジ』は6歳前後です。いわゆる神経網がまだ粗形態です。荒削りだから細かく習得させていくよりも、いろんな刺激を与えて多くの体験をさせようという時期ですね。小学校の運動会で、オーバーアクションの子どもを見かけたりしますよね? あれはこの年代の1つの特徴で、まだまだ神経が発育発達の段階にあるので、洗練されていない。そこが洗練されていくのが9〜12歳です。
『ポスト・ゴールデンエイジ』については、ある程度神経系がMAXに達しています。体の発育のスパート期に入ってくる。骨がグーンと成長して、背が伸びてくる。それによって内蔵や筋肉が大きくなる時期です。運動選手にとっては『呼吸循環器、つまり心臓や血管、肺などが大きくなるからそこに刺激を与える持久力を高めるトレーニングをしましょう』と、そういった方向性のトレーニングに変わっていきます。たまに、成長期にぎこちない動きをする子どもがいるじゃないですか? そういうのを『クラムジー』といって、体の成長にトレーニングが追いつかずにマイナス要素、要はスポーツ障害を起こす可能性があります。骨が柔らかいので成長軟骨だとか、骨端成長線の部分に障害が出たりする。だから、インパクトの強いトレーニングをするのを控えたりします。そういうトレーニングをすると、サッカーで言えば、膝の前が痛くなったりして『オスグッド』病など、いろんな成長痛が出てくる年代でもあります。
高校生ぐらいの『インディペンデントエイジ』になると、骨の成長が止まって骨が固くなる。そうすれば、『筋力系のトレーニングもやっていきましょう』となります。これが『スキャモンの発達発育曲線』から考えられたトレーニングの方向性です。
【第二回 日本サッカー界の育成課題】
▼コミュニケーション能力の向上も育成年代のレベルアップに不可欠
——現場の指導者は【第一回 ゴールデンエイジの重要性】で語った内容を知ったうえで教えてらっしゃるのでしょうか? 実は、私も大学時代にJFAのC級コーチライセンスを取得して現場に立っていました。もう15年以上前になりますが、ライセンスを持たないと指導できないという規則ができた転換期で、講習会を受けて『育成』の知識を得て練習メニューを組んでいました。最近、ジュニア~ユース世代の練習をのぞいていると、漠然と指導されている方もまだいらっしゃるのかな?といった感想を持っています。
まだそういうこともあると思います。ただ、サッカーはほかの競技に比べると、非常に進んでいます。JFAが『指導者養成』を大きな柱の1つにしてきたので、(サッカー協会への)指導者の登録者数もほかの競技にないぐらいだと予想できます。登録には、講義を受けて指導者としての知識や理論を学ばないといけない。当然、『スキャモンの発育発達曲線』のことだとか、この時期(ジュニア~ユース世代)の技術的な方向性はすごく伝播されてきたなと感じます。もちろん、実際の講習会の内容にもよります。
私も講師としてB級、S級の指導者養成に携わった経験があります。注意していたのは、現場で生かせるもの、使っていただけるものを念頭に置きながら講義をやっていました。講師の中には、こういったものを(理論を)しっかり教える大学の先生もいらっしゃいます。現場の指導と講義内容に多少ギャップがあるので、頭でっかちになる部分もありますけど、使えるものかどうかでは『もしかして使えないもの』もあったかもしれません。でも、『現場で生きるもの』というのは、そこから先は、基礎的な学問から自分で発展性を持って作っていかなければいけない。実際は、そこまでには至ってないのかなというのもあります。だからこそ、僕らが現場で実践しているトレーニングを、もっと紹介しなければいけない。雑誌で連載したりとか、本で紹介したりとか。
——現場レベルの情報を積極的に発信していきたいと思っています。山本さんはトレーニング教室をやられています。その様子を今後レポートとして、不定期でサイトに紹介したいのですが…。
はい、ぜひ! 『ゴールデンエイジ』のスクールをやっていますんで。
——著書「ジュニアサッカー フィジカル改善プロジェクト」(ベースボール・マガジン社)を拝見しました。基本的な動き方や正しいフォームがわかりやすく解説してあります。やはり、ある程度の理論を踏まえたうえでトレーニング術を噛み砕く必要があると思います。なかでも、注目したのは『対人トレーニング』です。相手がいる状況と、接触したあとに即座に対応してリフォームするポイントがすばらしいです。これは現場レベルの人がメニューを作るは大変難しいです。少し詳しく教えていただけないでしょうか?
例えば、ウチの『1対1』は、JFAでよく使われる『オン・ザ・ボール』と『オフ・ザ・ボール』を基本に考えています。『ボールがある中での1対1』と『ボールがない中での1対1』ということで、指導者養成の中でも説明をするんですね。ですから、私たちと指導者はリンクしなければいけない。当然、『オン』と『オフ』があれば、『オンからオフ』『オフからオン』もある。だから、この4つのシチュエーションに分けた中で『フィジカルの視点では、何が大切なのか?』『判断する中で、どういう体の使い方をしなければならないか?』というところを体系立てています。
『オン』でも相手との距離だったり、角度だったり、そういった部分で体の使い方が変わってきます。シチュエーションの中で『どういったところがポイントなのか?』、1つ物差しを作ります。その中でできているのか? できていないのか? を指導中に見ていくんです。だから、講義でも『1対1』をわかりやすく、いま言ったように『オン』と『オフ』と説明して、さらにそれを細分化して、体のテーマとしては『こうですよ』と教えていきます。サッカーの映像を使って、そのシチュエーションを抜き出して解説することもあります。体の使い方という点では『ココでエラーが生じていますよね』とか、『これはすごくいいプレーですよね』とか。そうすると、結構みなさんに理解していただけるんです。
——対人トレーニングの中で、複数という状況はあり得ますか?
もちろん、あり得ます。まず、シチュエーションでテーマを設けた『1対1』のトレーニングをします。それを最低2つ、3つぐらいやったうえで、その状況が出やすいようなグループの対人トレーニングをします。すると、できない子どもがでてきます。その子どもには、『さっきやった1対1のテーマが出てきたよね。でも、2対2になったらできなかったね。どうしてだろう? 』と問いかけます。問題が解決してスムーズにプレーできるようになったら『さっきのところがつながったよね』って、2対2でもやれるように指導していきます。2対2なので、さらにコミュニケーションが加わる。
これって、日本サッカーの課題だと思うんですが、グループでの対人練習でのコミュニケーション能力が低いんですよ。オシム時代からよく『ボールも人も動くサッカー』と言われていますけど、なかなか動かない。だからゴールデンエイジからでも、コミュニケーション能力、いわゆるインプットの部分はトレーニングに取り込めるんです。
——なるほど、インプットの問題なんですね。
はい。コミュニケーション力がいまの子どもは足りないので、共通のワードを提示してあげるんです。こういう状況ではこの言葉で、こういうコミュニケーションをとろうと。
——コミュニケーション能力って、単純に『声を掛け合う』ということでしょうか?
自分のやりたいプレーを主張することだったり、相手を助けるために声を発することだったり、そういったところですよね。前から自分にディフェンスがつきました。相手はプレッシャーをかけてくるから、前向きにボールが持てない。だから、体を使ってスクリーンでボールを隠す。隠した状況の中で、さらに視野が狭まり、ボールを進められない。その状況の中でサポートが入るとします。その場合にボールを渡すには、スクリーンをしながらドリブルしている人のボールを持っていく、あるいはボール保持者がヒールで渡すというプレーが考えられます。お互いの意志がうまく合わないと、ボールを受け渡す途中でギクシャクしてスピードアップできません。
——そういったコミュニケーションも教える時代なんですね。
私たちが幼いころ、公園で遊んでいた時代はコミュニケーションを自然に図りながらみんなで楽しくサッカーやったり、ドッジボールしたり、いろいろとワイワイやっていました。でも、いまはサッカースクールに来てコーチから習って。子どもを見ていると、ほとんどコミュニケーションをとる声を発していない。中学生の現場へ行くと、選手同士で話をしている姿なんか見ないんですよ、レベルが高くても。だから、『ゴールデンエイジからコミュニケーションを図る練習』をフィジカルトレーニングの中でつけてあげなきゃいけないのかな? ということも感じます。
コーチの方々は、ゴールデンエイジはスキルが伸びる段階だから、ドリブルやキックなど個人の技術的な部分を強調して指導するんですよ。個人を見れば、スムーズにドリブルをできる子どもは多いんです。ドリブルがうまい、コントロールがうまい子は評価されるから。でも最終的には、もちろんそれを持ったうえで、コミュニケーション能力やインプットの部分である判断力をつけてあげないといけない。本当はドリブルをしてはいけない場面でドリブルしてしまう子どもがたくさんいたりだとか…。『判断力』と『コミュニケーション能力』を高める作業も必要になってくるんです。高校生を教えていて『高校生になって、こんなことをやらなきゃいけないのかなか?』って思う時もあります。『判断力』や『コミュニケーション能力』の部分は神経系の1つの要因なのでインプットと考えたら、本当は小学生の内から必要なんですよね。
——コミュニケーションには会話が必要だし、言葉の意味や重要性も大事になります。そう考えると、『育成』は人間教育が切っても切り離せません。やはり昔と違うから『いまの時代の子ども』に合わせて指導しないといけないものなのでしょうか?
そうだと思います。
——2か月ぐらい前に、J2の試合を観戦しました。「東京ヴェルディ1969×FC東京」だったのですが、ヴェルディの選手は下部組織出身の選手が多く、すごく若かくて技術レベルも高かった。1点先制したのですが、その後、東京のプレッシャーに押しつぶされて1点を守りきれず、最後はゲームを支配されていました。サッカーという視点でゲーム運びや個人のプレーに意外性やダイナミックさ、あえて途中のパスを省くような老獪さのようなものがもの足りないように感じました。
僕も数人かかわっている選手がいるんで、ヴェルディも東京も。A代表なんかを見ると、高校生出身の選手が多いんですよね。Jリーグが誕生して18年以上、下部組織のクラブが発足して時間が経っているのに。本来、いまの代表チームにはクラブ出身の選手がもっと多くなくてはいけない。エリートが集まっているので、出てきてもおかしくない。
高校の先生と話をすると、『やっぱり人間教育的な部分を、高校生年代でしっかり詰めてないから、(クラブの子どもたちは)ゆくゆく伸びない』ってみなさんおっしゃいます。サッカーは技術や戦術だけを教えたらいい訳ではなくて、もちろんフィジカルもですけど、総合的に『人としての成長を促す』ようなものの、1つの媒体として『サッカーがある』という認識をしておかなくちゃならないのかなと思います。
指導者養成の中で、体の発育・発達の中では『この年代の指導はこうですよ』って伝えるだけではね…。昔はそれがメチャクチャで、子どもたちにうさぎ跳びをさせたりとか、非科学的なことがたくさん日本の現場にあって、それが整理されたのはいいけど、今度は整理したことで狭くなってしまった部分も実際あるかもしれない。『こうあるべきだ!』という狭さを作る。その年代の指導はドリブルだけやればいいとか。だから、コミュニケーション能力だったり、人間的な教育だったりとか、それぞれのカテゴリーに合った総合的なアプローチをもっとしなきゃいけないかもしれないです。
【最終回 サッカー選手は質の高い万能型】
▼サッカーはほかのスポーツに比べてバランスよく練習をすることが必要
——ほかのスポーツも指導されていますが、サッカーとほかのスポーツが大きく違うところは何なのでしょうか? 特異性はどういう部分ですか?
野球選手は、ポジションによってある程度動きが決まっている。そのポジションの動きを高めるには、新たな動きへの備えや構えを作るというのが一つの考えになるんです。でも、サッカーの場合は本当に多岐に渡るので、前にも、後ろにも、斜めにも走ることが多いし、ジャンプもする。だから、フィジカル面で総合的な体力が必要になるんです。
ウチでは『体力テスト=フィールドテスト』をやっているんです。テストでは、文科省の体力テストと違って、50m走や反復横跳びなど日本のスタンダードな項目もやりますが、50m走の中に10、30mのラップタイムをとれるよう、腰に磁気のセンサーをつけて行います。例えば、サッカーでは10mの速さが重要なんですよ。野球の塁間は約27mなんで、野球のスタンダードは30m走なんですよね。小学生なんかは30、40mから失速していくんですよ、まだ筋肉がないから。でも、その中で成長を見ることができる。50m走でも競技の特異性を出したり、あるいはステップワーク、斜めに走るクロスオーバーステップなんかはサッカーのみならず、野球でも動きがあるし、バスケットボールでも大事なんですよね。そういったものが含まれる50m走を作ったりとか、基本的なステップワークの動作だとか、ジャンプ力も垂直方向と5段飛びという水平方向へのジャンプもやっています。それを7つぐらいにまとめた『アスリートとして必要な基本動作の体力テスト』を作って、グラウンドでやっています。
サッカーであればロングキックをプラスしたり、野球では遠投やベースランニングを加えたり、それぞれの競技で特異性のある要素とくっつけてやっています。全国をまわって、サッカーはいままでに3万人ぐらいかな、実施しています。スポーツ科学課がある高校から、その学課内にある『いろんなスポーツの中で誰が一番のアスリートなのかを決めたいので、文科省の体力テストをくっつけてやってくれないか?』という打診があって、もう3、4年になります。その中で比べてみると、総合的に高いのはサッカーなんです。別にサッカーのために行っている訳ではありませんが、持久力も方向転換能力もジャンプ力も、総合的に見るとサッカー。バレー部は垂直跳びが高いけど持久力がなかったり、陸上部では短距離の選手はものすごく短距離が速いけど方向転換が入ってくると全然できなかったり、総合ランキングで判断すると断然サッカーです。
野球選手なんかと話をすると、いまどきの選手は野球一筋でずっと習っているから野球の動作は上手なんだけど、ある一定のレベルまで達すると、そこから新しい動きを作り出す(身につける)ことでプレーの幅が広げるらしいんですよね。そのレベルまではうまく見えるけど、そこを越えるための何かが必要らしくて。それって『子ども時代に培った運動の経験だったりすのかな』ってよく話に出てくるんです。
——基本的に、教室では『サッカー』だけではなく、ほかの競技をやっている子ども参加しているんですね?
ラグビーをやっている子もいましたし、運動神経が鈍臭くて連れて来られた子もいましたし、まったくスポーツをやっていない子もいました。いまはフットサルコートでやっていて、サッカーのことを幅広くやっているので、サッカーの子がほとんど。フットサルコートをお借りしてやっていますが、その時間帯はお客さんが入らない時間というか、活性化をしていただきたいという要望があって話にのったんです。でも19〜20時は、子どもが『食事→風呂→就寝』というサイクルなんですよね。子どもの生活スタイルからすると、あんまりよろしくないと頭の片隅にあるので、今後アフタースクールで展開していきたいと考えています。16時半〜17時半ぐらいの『お母さんが17時まで働ける』、その中で『子どもがいい活動ができる』という形で、来年からそんな営業をして広げていきたいなと思っています。
——ちなみにテストでは、A〜Cというようなランク付けをしているんですか? それと、子どもに公表は?
テストは1時間弱で終わります、小学生も高校生も。データを1人ずつ渡すまでに、30〜40分なんですよ。自分のレーザーグラフの中で『どこが得意で、どこが苦手か?』を1人ずつ配って説明をします。高校生のチームだと、データを出すまでに無料のフィジカルトレーニングをやるんです。『さっきのこのテストはこうやったらここが伸びるよ』とアドバイスもします。監督にはチームのデータをお渡しして、『何年度のチームと比べるとこうですよ』とか、『全国的に比べるとこうですよ』とか、数種類をお渡ししています。
——おそらく教室に通わせている親御さんはないと思いますが、過保護すぎる方はいらっしゃいますか? 最近ではテレビのドラマにもなっていますが…
そこはないですね。むしろ、データを見て評価することで、いいところは伸ばすし、悪い部分は強化しましょうと。私たちは親御さんに毎月通信を出しているんですね。テストは3ヶ月に1度ですが、翌月の通信では『テストの結果は見ていただけましたでしょうか?』全体的にはこういう部分がよく、逆にここが強化部分なので今後はそこに力を入れていきます、などご報告しています。親御さんとのコミュニケーションも、もちろん迎えに来た時もとりますが、そういう部分でもやっています。
——最後にサッカーの質問を1つ…JFAも子どもの成長に合わせて、トレーニングの人数が変えることを推進しています。ことしから全日本少年サッカー大会が8人制に移行しています。そういうことを山本さんはどう考えられていますか?
それはわかんないです、一長一短ですからね。人数が少なければボールに触る回数が増えるし、よさもあると思います。一方で、本当のサッカーの醍醐味が薄くなるという意見もありますし。それは、僕らが論じるところではないですからね。
——残念ながら、そろそろ時間になってしまいました。いま現場の視点でいろいろ話を伺いました。このサイトは『子ども』『両親』『指導者』に向けて情報を配信していくつもりです。フィジカルトレーナーとしてそれぞれにアドバイスがあれば、最後にお願い致します。
指導者に方には、個人の戦術はテクニカルな部分とフィジカル的な部分があります。フィジカルは単にスピードが速いとか、体が強いとかだけじゃなく、動作が正確か、判断して正しい動作ができているか、コミュニケーションをとりながらそれがやれるのかを見極めて指導することも含んでいます。それができたらもっとやれる(プレーできる)ことが広がるんで。そこにも目を向けてもらって、フィジカルトレーナーである我々と一緒に手を組んで育てていくのが『いい選手を育てる』ことにつながると思います。
選手に関しては、フィジカルはさっきの話が出た大きいとか、速いとか、タフとかそういう観点じゃなく、『正しい動き』ということでもっと考えてほしい。そう考えると、もっと下の年代からやるべきことがあるし、上の年代になれば『学んだ動きを、どうサッカーに結びつけたらいいのか?』そういうことを練習から意識すること、フィジカルに対しての考え方を広げること。僕らもそういう活動をしていかなければならないですけど、『そういうもんなんだよ』とわかってもらいたい。
親御さんについては、試合に行くとつい選手よりも熱く、一生懸命になりすぎてしまいます。だから、講義させていただく時は、それぞれの役割があって、我々の(フィジカルトレーナーの)役割、監督・コーチの役割、そして親御さんの役割というのをご説明します。よくあるアメリカの文献なんかでは『子どもが安全にスポーツをできる環境を整えてあげること』と『食事つまり栄養面』の2つをしっかりサポートしてくださいと書いてありますと伝える。それ以上のことをやると、保護を越えた過保護になってしまう。『 Players First 』じゃないですけど、子どものために私たちはみんなで手を組んでやっていかなければならないんで、『あのコーチはダメ、このコーチはどうだ』じゃなく、勝ち負けだけでなく、子どもたちの成長をそれぞれの立場、責任のもとサポートしましょうと。熱の入ったお母さんたちが多くなってきているので、まず『栄養について責任を果たせていますか?』あとは『子どもに安全な環境を与えられていますか?』とそれだけでいいじゃないんでしょうかという話をします。あとは、見に来ていただいて、温かい目で応援してくれたらいいと思います。(笑)
■山本 晃永 (やまもと あきひさ)
1967年生まれ。神奈川県出身
法政大学を卒業後、アメリカとイギリスへ渡ってトレーナーの資格を取得。帰国後は東京ヴェルディ1969やベガルタ仙台のフィジカルコーチ、U-15・16・17サッカー日本代表のアスレティックトレーナーを務め、2003年に「Y’s Athlete Support Inc.」(http://ys-athlete-support.com/)を設立。ジュニア・ユース世代のトレーニングを中心に指導をする傍ら、JFAやスポーツ系専門学校で講師としても活躍中。雑誌連載や著書など多数
【資格】
全米アスレティクトレーナー協会公認アスレティックトレーナー
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
日本スポーツ教育協会公認ジュニアサッカーメディカル&フィジカルサポーター