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すべての人に取材で得た”サッカーの知”を公開します!

フィジカルトレーナー・山本晃永氏 〜其の壱〜

【第一回 ゴールデンエイジの重要性】

正しい動きとその幅を広げることがその後のサッカー人生につながる!


 『 Players First 』を合い言葉に、JFA=日本サッカー協会が注力している責務の1つは、12歳以下の子どもの育成とそこに関わる指導者の養成である。単に12歳以下と言っても、幼稚園や小学生の子どもは身長など体の大きさが異なり、監督とコーチが年齢や体格を見定め、それぞれに気の利いたアドバイスを必要とする。そのためには経験はもちろん、『なぜ、このトレーニングをやるのか?』という理由を選手に理解させることが大切であり、チームや選手の状況によっては、その理由を導き出した理論をわかりやすく伝えることも重要だ。指導者は、子どもたちの『なぜ?』を感じとり、それを解決しながら日々のトレーニングを積み重ねなければならない。

 では、ジュニア~ユース世代は『どの年齢の時に、どのようなトレーニングをすればよいのか?』 U-15・16・17日本代表のアスレティックトレーナーを務めた経験を持つ『山本晃永』氏に、フィジカルの観点からインタビューを試みた。体の発育・発達が著しいこの年代は、どのようにカテゴライズされ、どういった方向性でトレーニングをすべきか。特に12歳以下のサッカー選手は、体が大きくなる中で『何を知り、何を伸ばさなければいけないのか?』 3回連続特集として、山本氏に詳しく伺ったので、ぜひご一読いただきたい。

——サッカーでは、ジュニア世代の選手を『ゴールデンエイジ』と呼び、特に育成に力を入れています。フィジカル的な面からその理由を教えてください。

 体の発育・発達過程の中で『ゴールデンエイジ』は9〜12歳ぐらいを指します。その前にも、幼稚園や小学校低学年ぐらいの5〜8歳までを『プレ・ゴールデンエイジ』と言い、中学校年代の13〜15歳を『ポスト・ゴールデンエイジ』という形で区切ります。高校生年代の16〜18歳になると『インディペンデントエイジ』といって独立していく世代に突入します。『何を理由にそうわけるのか?』と言うと、神経系がものすごく発育・発達する段階だということです。ゴールデンエイジと名の付く年代は、『いかに神経を活性化させるか?』といったテーマでトレーニングをやります。それは技術的な点でも、我々フィジカルという点でもそうです。

——もう少し具体的には?

『神経系がどういうものか?』というと…、例えば、目・耳・鼻・触覚(触ること)などの感覚器からの情報が脳に伝わり、脳の中で命令を出して、筋肉にその命令を伝え、動作ができていく、あるいは技術ができていくという流れなんです。こういった『インプット=脳に入ってくる神経』と『中枢神経である脳の下した判断や命令を筋肉に伝える=アウトプット』を活性化するということが大切です。

 脳の中でしっかりと正しい指令を出して、それを正しく筋肉に伝えいく『アウトプット』は、人間は骨も筋肉も作りはみんな一緒ですから、正しい動き方、つまり合理性のある動き方はある程度決まっている。だからゴールデンエイジ世代の時期に、『正しいフォームを教えてあげること』と『その正しさの中の幅を広げてあげること』が必要です。ゆっくりとか素早くとか、強くとか弱くとか、キャパシティを広げてあげる。テーマとしては、正しいフォーム、正しい動きを作ること、そこができたらその幅を広げてあげる形になります。

 また、サッカーは『インプット』もすごく大事なスポーツです。ゲームの中で自分の状況や相手を見ながら、あるいは味方とコミュニケーションしながら聴覚という感覚器で周囲の声に耳を傾けながら、そこを適切な動作に結びつけるインプットもとても大切な作業になる。対人動作の中では『相手と駆け引き』をしながら動くということも加わってきます。

 止まれないためにディフェンスに抜かれることがあるんですが、トレーニングの中で、そこには『どこで止まるんだろう?』という判断が伴った動きを作ってあげないといけない。対人トレーニングで人数が増えれば、コミュニケーションを図りながら守ることも必要になる。こういう『インプット』と先ほど言った『アウトプット』の2つの観点から、神経系のトレーニングを指導するのが我々の使命です。

——JFAがジュニア世代を『U-6・8・10・12』とカテゴライズしているのは、神経系の動作が関連しているからですか?

 はい、そういう見方もあると思いますし、日本の学校教育は6学年で、2年ごとに分けるのがトレーニングの構成としてやりやすい。例えば、4年生と6年生の大きい子を比べたら全然体の大きさが違います。あと1年生と3年生もものすごく違う。だから『6→8→10』と2年刻みで考えて、それでU-12という区分けになる。もちろん神経系のトレーニングから見ても『6→8→10→12』とすることでトレーニングの方向性とか、コンセプトとか、この年代だからこういうアプローチをしなきゃいけないとか、目安にしやすい。

 ゴールデンエイジは『即座に習得できる年代』とよく言われます。また、その前のポスト・ゴールデンエイジは、習得をさせるために繰り返しやらせるよりも『より多くのことを体験させる年代』というのがサッカー界の常識です。まず、この年代は修正させるよりもたくさん体験させる。ゴールデンエイジ年代になったら1つ1つを修正していこうと。6・8は多くの体験をさせて、10・12は習得に重きを置きます。

 フィジカルトレーニングも6・8世代では、いろんな要素が入った動きを楽しくやらせてあげる。楽しくないと、あきちゃうんで(笑)。10・12になったら一人一人ちゃんと見て評価をしてあげます。選手に『何が悪かったか?』を気づかせ、コミュニケーションをとりながら直していく段階です。

スキャモンの発育発達曲線——サッカーの指導者養成でよく登場する『スキャモンの発育発達曲線』のグラフを参考にしているからですか? やはり理論的なアプローチから、ジュニア~ユース年代のトレーニングも1つ1つやっていく必要があると?

 そうですね。このグラフは、1930年代の海外の文献です。僕も仕事で、育成年代の子どもを連れて、よく海外に行くことがあります。日本の子どもは晩熟型なんですよね。だから必ずしも、『スキャモンの発育発達曲線』が当てはまるわけではない。ただこれを基本に、ある程度2年ごとに分けて『個』を見る作業もすごく大事になってきます。

 高校生でも中学生ぐらいの体の子もいますし、小学生でも中学生のように体の大きな子もいます。しっかりと基本ラインを頭に入れつつ、その前後もお互いオーバーラップしながら指導していかないといけない。

——山本さんの中で、ジュニア~ユース年代のどの時期に重きを置いてトレーニングをしたらいいとお考えですか? その後のサッカー人生に生きるというか、ポイントになるというか…

 んー、やっぱり『ゴールデンエイジ』が大切だと思います。私も高校生やプロを指導する中で『この前にもっとやるべきことがあるよな?』、じゃあ中学生を教えて『もっと前のゴールデンエイジにやらなきゃいけないことがあるな』ってどんどん若い年代を指導し始めて。その幅が広がる過程で気づきました。
 
 どこのカテゴリーが一番ということは難しいですね。カテゴリーごとに、やっておかなければならないことがあって。おそらく『プレ・ゴールデンエイジ』の体験も、現代の子どもはなかなか外遊びの環境がないのでたくさんやらせとかなきゃいけない。『ゴールデンエイジ』の習得もすごく必要です。そう考えると、今後を意識すれば、各年代で積み重ねていくものなので。

 でも『習得』はマスターしなければ、中学生になってケガをしやすい体になったりする。『ゴールデンエイジ』というのは、中学生年代へ移る準備期間でスポーツ障害を予防できる体の使い方を学ぶ、重要なターニングポイントになります。そう考えると、『習得』という時期は大切だと思います。スポーツ障害につながるという観点でいうと。

——少し話が前後しますが、プレからインディペンデントの説明を詳しくお願いできますか?

 9〜12歳は『ゴールデンエイジ』です。スキャモンのグラフでいうと、神経が成人に近いところまで発達しています。脳科学などほかの文献では、6歳前後で到達するものもあります。一般的な見方で言えば、9〜12歳と言われています。

 『プレ・ゴールデンエイジ』は6歳前後です。いわゆる神経網がまだ粗形態です。荒削りだから細かく習得させていくよりも、いろんな刺激を与えて多くの体験をさせようという時期ですね。小学校の運動会で、オーバーアクションの子どもを見かけたりしますよね? あれはこの年代の1つの特徴で、まだまだ神経が発育発達の段階にあるので、洗練されていない。そこが洗練されていくのが9〜12歳です。

 『ポスト・ゴールデンエイジ』については、ある程度神経系がMAXに達しています。体の発育のスパート期に入ってくる。骨がグーンと成長して、背が伸びてくる。それによって内蔵や筋肉が大きくなる時期です。運動選手にとっては『呼吸循環器、つまり心臓や血管、肺などが大きくなるからそこに刺激を与える持久力を高めるトレーニングをしましょう』と、そういった方向性のトレーニングに変わっていきます。たまに、成長期にぎこちない動きをする子どもがいるじゃないですか? そういうのを『クラムジー』といって、体の成長にトレーニングが追いつかずにマイナス要素、要はスポーツ障害を起こす可能性があります。骨が柔らかいので成長軟骨だとか、骨端成長線の部分に障害が出たりする。だから、インパクトの強いトレーニングをするのを控えたりします。そういうトレーニングをすると、サッカーで言えば、膝の前が痛くなったりして『オスグッド』病など、いろんな成長痛が出てくる年代でもあります。

 高校生ぐらいの『インディペンデントエイジ』になると、骨の成長が止まって骨が固くなる。そうすれば、『筋力系のトレーニングもやっていきましょう』となります。これが『スキャモンの発達発育曲線』から考えられたトレーニングの方向性です。

※第二回は【日本サッカー界の育成課題】です


山本 晃永 (やまもと あきひさ)
1967年生まれ。神奈川県出身
法政大学を卒業後、アメリカとイギリスへ渡ってトレーナーの資格を取得。帰国後は東京ヴェルディ1969やベガルタ仙台のフィジカルコーチ、U-15・16・17サッカー日本代表のアスレティックトレーナーを務め、2003年に「Y’s Athlete Support Inc.」(http://ys-athlete-support.com/)を設立。ジュニア・ユース世代のトレーニングを中心に指導をする傍ら、JFAやスポーツ系専門学校で講師としても活躍中。雑誌連載や著書など多数

【資格】
全米アスレティクトレーナー協会公認アスレティックトレーナー
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
日本スポーツ教育協会公認ジュニアサッカーメディカル&フィジカルサポーター

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