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サッカー解説者・川添孝一 〜其の弐〜

【第二回 サムライブルー】

日本代表の現在、ブラジル大会に向かって


 前回の『なでしこジャパン』に続き、第2弾のテーマは『サムライブルー』。代表戦のピッチ解説などでおなじみのサッカー解説者・川添孝一氏に、男子の日本代表の好調の要因や課題などさまざまなことを熱く語ってもらった。

——ワールドカップ・南アフリカ大会のベスト16進出、アジアカップの優勝と、日本代表は着実に前進しています。その成功している背景や現状を率直にどう感じていますか?

「南アフリカ大会のベスト16進出で一番大きかったのは、同郷(鹿児島県)のMF遠藤保仁が機能したことです。この間のアジアカップ制覇も自信という点で大きかったんでしょうが、もしワールドカップで負けていたら選手がガラッと入れ替わって継続性が保たれなかったと思いますから。

 実は、アジアカップのオーストラリアとの決勝戦は試合を見られなくて、ボコボコにやられたら終わりなんだろうなと思っていました。ホッとしましたよ。いいタイミングで、いいゲームをやって勝てたのは本当によかった。やっぱりゴールデンエイジの中で、シドニーオリンピックやワールドカップ・ドイツ大会でハズレくじばかりを引いた遠藤が活躍したのはうれしかった。女子の戦い方と同じで、最後の最後まであきらめないヤツがいい思いをするのかなって。彼のことは小学校から知っていますから。

 MF香川真司のドイツでの成功が追い風になったんじゃないですかね。若手も『オレらはやれるんだ!』という気持ちになって。DF長友佑都なんかも刺激を受けて、ああ(インテル移籍)なりました。香川の躍進が若手に大きく自信をつけさせてくれたんじゃないかと感じます。

 次のワールドカップ・ブラジル大会に向けて、ザックが監督に就任したことも本当に奇跡に近いのかなと思います。原(博実)さん、技術委員長も強運だなという気がします」

——いまザッケローニ監督の話になりましたけど、呼べたのは『奇跡』に近いんでしょうか?

「普通はこないですよ、あのクラスは。そういう意味ではツキもありますし、ザック就任以降、結果が出ています。ただ、ワールドカップのアジア予選は別物です。特に、急造感のあるセンターバック、アジアチャンピオンになったあの2人(DF今野泰幸・吉田麻也)がどんな修羅場をくぐって、どう経験を積んでいくのか。ブラジル大会に向けて大きなポイントですね。南アフリカ大会でベストパフォーマンスを見せたベテランの(田中マルクス)闘莉王や中澤佑二の経験をうまく取り入れる必要もあるのかなと思います。2人ともブラジルは縁が深いですから」

——香川選手の話が出ました。いま代表の平均年齢が下がって若手中心にシフトした感があります。単純に、メンタル面と技術面がどう変わったのか、2点で伺いたいです。

「香川は22、宇佐美がJリーグ元年ぐらいに生まれた年齢ですよね。技術的には非常にレベルが上がってきています。プレースピードと判断スピードが向上し、体と頭がうまくマッチングしてきてヨーロッパでもプレイヤーとして監督を、またファンを納得させるだけの結果も出せるようになってきた。縦への意識や、海外の選手は抜いたと思ったら足がもうひと伸びしてきますが、彼らは日本にはないそういう状況下でも慌てることなくプレーができるようになった。

 いまヨーロッパへ移籍するのが当たり前になってきていますが、いい方へ向かっています。ザックは移籍したばかりで継続して試合に出場していなかった吉田麻也をすぐに使ったし、選手の見方や起用法なども含め、ワールドスタンダードになってきたんじゃないかな。おそらく日本人の監督だったら、すぐ起用とはならないと思います。彼は、吉田麻也が結果を出す前に呼んでいますから」

——采配や起用で言えば、ヨーロッパのスタンダードな考え方を行っていると。例えば、岡田監督だと先制点をとられて点を獲りたいからFW、守りに入りたいから中盤で体力のある選手を交代するような日本人的発想で采配していたように感じるのですが。

「そうですね。試合が拮抗していて、守備に不安な点を見つけてそれを安定させるためにDFを交代する、という発想はまだまだないですから。アジアカップのDF岩政大樹の起用もすばらしい。長友なんかも普通は前線で使ったりしないですからね」

——いま「1-3-4-3」を試していて、ザッケローニ監督は長友佑都・内田篤人選手を中盤まで上げていますけど、どうでしょう?

「彼らはヨーロッパでプレーしているからすんなり受け入れられているのはあるのかな。そういう意味では(「1-3-4-3」導入後の)チェコ戦では、宇佐美を見てみたかったです」

——招集した選手は使っていますよね。キッチリ人を見て判断していて、若手には大きいですよね。代表への欲求は結果的にマーケットという点で「Jリーグも世界市場の一部」といい方向へ流れていますし。

「若手には高いモチベーションになっています。でも逆の観点から言えば人材が流出しているので、Jリーグにとっては正念場にもなってきています。まあ、Jで見たいというのもありますが、若い時から世界に触れられるのはいいことです。どんどん出て行っていいと思います」

——川添さんの目から見て、いまの代表の戦術面や技術面で大きく変わったことは何だと思っていますか?

「オシムからの流れで、確実に縦への意識と運動量が増えましたよね。長友や長谷部もそうですけど、走力は(世界から見ても)脅威じゃないですか。技術力も上がっていますし、香川や韓国戦でデビューして活躍したMF清武弘嗣なんかの若手は世界で十分に通用する。戦術理解度も高いし、実力的には見劣りしないと思います」

——岡田監督の時代と比べて得点力というか、ゴールのにおいを感じるようになりました。そういう部分では、走力を含めて前線の選手に積極性が出てきたように感じます。

「全員の共通認識として『攻めるんだ!』という気持ちや姿勢が前提にあるから、やりやすいんじゃないですか」

——9月からアジア予選がスタートします。取り組むべき課題など考えをお聞かせください。

「アジアチャンピオンになって追われる立場になった。難しいグループに入りましたけど、ホームで負けた時にどうやって立て直すのか。必ず、山があるので誰がチームの中心になっていくのかがカギを握ると思います。遠藤などのベテランがコンディションを落とした時に、どういう采配をするのかが見ものです」

——ケガ人が出る可能性もありますし、ベストメンバーを常に維持できる訳でありません。最近は遠藤選手の後継者が話題になることも。フレッシュな選手が出てこないといけないと思いますが…

「個人的には、宇佐美がどれだけやれるかが楽しみです。途中で合流できるのか。バイエルンですからね、ザックもメンバーに入れると思いますから。遠藤の代理役としてMF家長昭博に目をつけるのは、さすがだなと感じます。日本人監督なら普通、家長をボランチで使う発想がないでしょう」

——いま代表が抱える問題って、どんなことだと思われますか?

「MFの本田圭佑が中心ではありますけど、彼が機能しなかった時に誰がその代わりを務めるのかとか、いろいろありますよね。アフリカ大会では、本田を1トップに据えて成功した形になりましたけど。でもFW岡崎慎司と本田との組み合わせも非常にいい」

——少しセンターバックを気にされていますが…

「はね返す力と試合を読む力がまだまだ学ぶ必要があると思います。アジアでは通用するかもしれないけど、ワールドクラスではどうなのかなと…。ザックもベテランの重要性は十分に理解しています。中村憲剛の代表復帰のこともありますし、闘莉王あたりをどのタイミングで呼ぶのか」

——それを含めて、チームの成熟には時間がかかります。

「そうですね。ベテランから若手への移行というタイミングは難しいですよ。フランスでさえ、2002年のワールドカップはボロボロで、でもドイツ大会ではまさか決勝まで進むとは思いませんでしたからね。サッカーはそのへんがおもしろい。いずれにしても、アジア予選をうまく本戦への『架け橋』にしてほしいです」

※【最終回 日本サッカーの育成事情】は9/9(金)にアップします


川添孝一川添 孝一(かわぞえ こういち)
1961年7月4日生まれ。鹿児島県出身。
1980〜1985三菱重工業サッカー部/ポジション FW
帝京高校時代の1979年に、名取篤(元日本代表選手)らと全国高等学校サッカー選手権大会に出場して優勝。5ゴールを挙げて得点王に輝く。卒業後は名取と共に、日本サッカーリーグ1部の三菱重工業サッカー部(現浦和レッドダイヤモンズ)でプレーをするが、1985年に24歳で現役を引退。その後は高校時代からの友人である木梨憲武の誘いもあり、サッカー解説者などメディアで幅広く活躍。指導者として後進の育成にも積極的にあたっている

取材・文=木之下 潤(Kinoshita Jun)

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