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フィジカルトレーナー・山本晃永氏 〜其の参〜

【最終回 サッカー選手は質の高い万能型】

サッカーはほかのスポーツに比べてバランスよく練習をすることが必要


 『日本サッカー界の育成課題』について語ってもらった前回に引き続き、フィジカルの観点から山本晃永氏にサッカーの特異性や自身が取り組むフィジカルテストの内容など、さまざまな質問に答えてもらった。いよいよ、3回連続特集の最終回となるので、ぜひご一読いただきたい。

——ほかのスポーツも指導されていますが、サッカーとほかのスポーツが大きく違うところは何なのでしょうか? 特異性はどういう部分ですか?

 野球選手は、ポジションによってある程度動きが決まっている。そのポジションの動きを高めるには、新たな動きへの備えや構えを作るというのが一つの考えになるんです。でも、サッカーの場合は本当に多岐に渡るので、前にも、後ろにも、斜めにも走ることが多いし、ジャンプもする。だから、フィジカル面で総合的な体力が必要になるんです。

 ウチでは『体力テスト=フィールドテスト』をやっているんです。テストでは、文科省の体力テストと違って、50m走や反復横跳びなど日本のスタンダードな項目もやりますが、50m走の中に10、30mのラップタイムをとれるよう、腰に磁気のセンサーをつけて行います。例えば、サッカーでは10mの速さが重要なんですよ。野球の塁間は約27mなんで、野球のスタンダードは30m走なんですよね。小学生なんかは30、40mから失速していくんですよ、まだ筋肉がないから。でも、その中で成長を見ることができる。50m走でも競技の特異性を出したり、あるいはステップワーク、斜めに走るクロスオーバーステップなんかはサッカーのみならず、野球でも動きがあるし、バスケットボールでも大事なんですよね。そういったものが含まれる50m走を作ったりとか、基本的なステップワークの動作だとか、ジャンプ力も垂直方向と5段飛びという水平方向へのジャンプもやっています。それを7つぐらいにまとめた『アスリートとして必要な基本動作の体力テスト』を作って、グラウンドでやっています。

 サッカーであればロングキックをプラスしたり、野球では遠投やベースランニングを加えたり、それぞれの競技で特異性のある要素とくっつけてやっています。全国をまわって、サッカーはいままでに3万人ぐらいかな、実施しています。スポーツ科学課がある高校から、その学課内にある『いろんなスポーツの中で誰が一番のアスリートなのかを決めたいので、文科省の体力テストをくっつけてやってくれないか?』という打診があって、もう3、4年になります。その中で比べてみると、総合的に高いのはサッカーなんです。別にサッカーのために行っている訳ではありませんが、持久力も方向転換能力もジャンプ力も、総合的に見るとサッカー。バレー部は垂直跳びが高いけど持久力がなかったり、陸上部では短距離の選手はものすごく短距離が速いけど方向転換が入ってくると全然できなかったり、総合ランキングで判断すると断然サッカーです。

 野球選手なんかと話をすると、いまどきの選手は野球一筋でずっと習っているから野球の動作は上手なんだけど、ある一定のレベルまで達すると、そこから新しい動きを作り出す(身につける)ことでプレーの幅が広げるらしいんですよね。そのレベルまではうまく見えるけど、そこを越えるための何かが必要らしくて。それって『子ども時代に培った運動の経験だったりすのかな』ってよく話に出てくるんです。

——基本的に、教室では『サッカー』だけではなく、ほかの競技をやっている子ども参加しているんですね?

 ラグビーをやっている子もいましたし、運動神経が鈍臭くて連れて来られた子もいましたし、まったくスポーツをやっていない子もいました。いまはフットサルコートでやっていて、サッカーのことを幅広くやっているので、サッカーの子がほとんど。フットサルコートをお借りしてやっていますが、その時間帯はお客さんが入らない時間というか、活性化をしていただきたいという要望があって話にのったんです。でも19〜20時は、子どもが『食事→風呂→就寝』というサイクルなんですよね。子どもの生活スタイルからすると、あんまりよろしくないと頭の片隅にあるので、今後アフタースクールで展開していきたいと考えています。16時半〜17時半ぐらいの『お母さんが17時まで働ける』、その中で『子どもがいい活動ができる』という形で、来年からそんな営業をして広げていきたいなと思っています。

——ちなみにテストでは、A〜Cというようなランク付けをしているんですか? それと、子どもに公表は?

 テストは1時間弱で終わります、小学生も高校生も。データを1人ずつ渡すまでに、30〜40分なんですよ。自分のレーザーグラフの中で『どこが得意で、どこが苦手か?』を1人ずつ配って説明をします。高校生のチームだと、データを出すまでに無料のフィジカルトレーニングをやるんです。『さっきのこのテストはこうやったらここが伸びるよ』とアドバイスもします。監督にはチームのデータをお渡しして、『何年度のチームと比べるとこうですよ』とか、『全国的に比べるとこうですよ』とか、数種類をお渡ししています。

——おそらく教室に通わせている親御さんはないと思いますが、過保護すぎる方はいらっしゃいますか? 最近ではテレビのドラマにもなっていますが…

 そこはないですね。むしろ、データを見て評価することで、いいところは伸ばすし、悪い部分は強化しましょうと。私たちは親御さんに毎月通信を出しているんですね。テストは3ヶ月に1度ですが、翌月の通信では『テストの結果は見ていただけましたでしょうか?』全体的にはこういう部分がよく、逆にここが強化部分なので今後はそこに力を入れていきます、などご報告しています。親御さんとのコミュニケーションも、もちろん迎えに来た時もとりますが、そういう部分でもやっています。

——最後にサッカーの質問を1つ…JFAも子どもの成長に合わせて、トレーニングの人数が変えることを推進しています。ことしから全日本少年サッカー大会が8人制に移行しています。そういうことを山本さんはどう考えられていますか?

 それはわかんないです、一長一短ですからね。人数が少なければボールに触る回数が増えるし、よさもあると思います。一方で、本当のサッカーの醍醐味が薄くなるという意見もありますし。それは、僕らが論じるところではないですからね。

——残念ながら、そろそろ時間になってしまいました。いま現場の視点でいろいろ話を伺いました。このサイトは『子ども』『両親』『指導者』に向けて情報を配信していくつもりです。フィジカルトレーナーとしてそれぞれにアドバイスがあれば、最後にお願い致します。

 指導者に方には、個人の戦術はテクニカルな部分とフィジカル的な部分があります。フィジカルは単にスピードが速いとか、体が強いとかだけじゃなく、動作が正確か、判断して正しい動作ができているか、コミュニケーションをとりながらそれがやれるのかを見極めて指導することも含んでいます。それができたらもっとやれる(プレーできる)ことが広がるんで。そこにも目を向けてもらって、フィジカルトレーナーである我々と一緒に手を組んで育てていくのが『いい選手を育てる』ことにつながると思います。

 選手に関しては、フィジカルはさっきの話が出た大きいとか、速いとか、タフとかそういう観点じゃなく、『正しい動き』ということでもっと考えてほしい。そう考えると、もっと下の年代からやるべきことがあるし、上の年代になれば『学んだ動きを、どうサッカーに結びつけたらいいのか?』そういうことを練習から意識すること、フィジカルに対しての考え方を広げること。僕らもそういう活動をしていかなければならないですけど、『そういうもんなんだよ』とわかってもらいたい。

 親御さんについては、試合に行くとつい選手よりも熱く、一生懸命になりすぎてしまいます。だから、講義させていただく時は、それぞれの役割があって、我々の(フィジカルトレーナーの)役割、監督・コーチの役割、そして親御さんの役割というのをご説明します。よくあるアメリカの文献なんかでは『子どもが安全にスポーツをできる環境を整えてあげること』と『食事つまり栄養面』の2つをしっかりサポートしてくださいと書いてありますと伝える。それ以上のことをやると、保護を越えた過保護になってしまう。『 Players First 』じゃないですけど、子どものために私たちはみんなで手を組んでやっていかなければならないんで、『あのコーチはダメ、このコーチはどうだ』じゃなく、勝ち負けだけでなく、子どもたちの成長をそれぞれの立場、責任のもとサポートしましょうと。熱の入ったお母さんたちが多くなってきているので、まず『栄養について責任を果たせていますか?』あとは『子どもに安全な環境を与えられていますか?』とそれだけでいいじゃないんでしょうかという話をします。あとは、見に来ていただいて、温かい目で応援してくれたらいいと思います。(笑)


山本 晃永 (やまもと あきひさ)
1967年生まれ。神奈川県出身
法政大学を卒業後、アメリカとイギリスへ渡ってトレーナーの資格を取得。帰国後は東京ヴェルディ1969やベガルタ仙台のフィジカルコーチ、U-15・16・17サッカー日本代表のアスレティックトレーナーを務め、2003年に「Y’s Athlete Support Inc.」(http://ys-athlete-support.com/)を設立。ジュニア・ユース世代のトレーニングを中心に指導をする傍ら、JFAやスポーツ系専門学校で講師としても活躍中。雑誌連載や著書など多数

【資格】
全米アスレティクトレーナー協会公認アスレティックトレーナー
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
日本スポーツ教育協会公認ジュニアサッカーメディカル&フィジカルサポーター

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