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フィジカルトレーナー・山本晃永氏 〜其の弐〜

【第二回 日本サッカー界の育成課題】

コミュニケーション能力の向上も育成年代のレベルアップに不可欠


『ゴールデンエイジの重要性』について語ってもらった前回に引き続き、フィジカルの観点から山本晃永氏に育成年代のリアル事情やトレーニング方法などの質問に答えてもらった。3回連続特集の第二弾となる今回は、日本サッカー界の育成の課題も飛び出した。その解決策とは? ぜひご一読いただきたい。

スキャモンの発育発達曲線
——現場の指導者は【第一回 ゴールデンエイジの重要性】で語った内容を知ったうえで教えてらっしゃるのでしょうか? 実は、私も大学時代にJFAのC級コーチライセンスを取得して現場に立っていました。もう15年以上前になりますが、ライセンスを持たないと指導できないという規則ができた転換期で、講習会を受けて『育成』の知識を得て練習メニューを組んでいました。最近、ジュニア~ユース世代の練習をのぞいていると、漠然と指導されている方もまだいらっしゃるのかな?といった感想を持っています。

 まだそういうこともあると思います。ただ、サッカーはほかの競技に比べると、非常に進んでいます。JFAが『指導者養成』を大きな柱の1つにしてきたので、(サッカー協会への)指導者の登録者数もほかの競技にないぐらいだと予想できます。登録には、講義を受けて指導者としての知識や理論を学ばないといけない。当然、『スキャモンの発育発達曲線』のことだとか、この時期(ジュニア~ユース世代)の技術的な方向性はすごく伝播されてきたなと感じます。もちろん、実際の講習会の内容にもよります。
 
 私も講師としてB級、S級の指導者養成に携わった経験があります。注意していたのは、現場で生かせるもの、使っていただけるものを念頭に置きながら講義をやっていました。講師の中には、こういったものを(理論を)しっかり教える大学の先生もいらっしゃいます。現場の指導と講義内容に多少ギャップがあるので、頭でっかちになる部分もありますけど、使えるものかどうかでは『もしかして使えないもの』もあったかもしれません。でも、『現場で生きるもの』というのは、そこから先は、基礎的な学問から自分で発展性を持って作っていかなければいけない。実際は、そこまでには至ってないのかなというのもあります。だからこそ、僕らが現場で実践しているトレーニングを、もっと紹介しなければいけない。雑誌で連載したりとか、本で紹介したりとか。

——現場レベルの情報を積極的に発信していきたいと思っています。山本さんはトレーニング教室をやられています。その様子を今後レポートとして、不定期でサイトに紹介したいのですが…。

 はい、ぜひ! 『ゴールデンエイジ』のスクールをやっていますんで。

——著書「ジュニアサッカー フィジカル改善プロジェクト」(ベースボール・マガジン社)を拝見しました。基本的な動き方や正しいフォームがわかりやすく解説してあります。やはり、ある程度の理論を踏まえたうえでトレーニング術を噛み砕く必要があると思います。なかでも、注目したのは『対人トレーニング』です。相手がいる状況と、接触したあとに即座に対応してリフォームするポイントがすばらしいです。これは現場レベルの人がメニューを作るは大変難しいです。少し詳しく教えていただけないでしょうか?

 例えば、ウチの『1対1』は、JFAでよく使われる『オン・ザ・ボール』と『オフ・ザ・ボール』を基本に考えています。『ボールがある中での1対1』と『ボールがない中での1対1』ということで、指導者養成の中でも説明をするんですね。ですから、私たちと指導者はリンクしなければいけない。当然、『オン』と『オフ』があれば、『オンからオフ』『オフからオン』もある。だから、この4つのシチュエーションに分けた中で『フィジカルの視点では、何が大切なのか?』『判断する中で、どういう体の使い方をしなければならないか?』というところを体系立てています。

 『オン』でも相手との距離だったり、角度だったり、そういった部分で体の使い方が変わってきます。シチュエーションの中で『どういったところがポイントなのか?』、1つ物差しを作ります。その中でできているのか? できていないのか? を指導中に見ていくんです。だから、講義でも『1対1』をわかりやすく、いま言ったように『オン』と『オフ』と説明して、さらにそれを細分化して、体のテーマとしては『こうですよ』と教えていきます。サッカーの映像を使って、そのシチュエーションを抜き出して解説することもあります。体の使い方という点では『ココでエラーが生じていますよね』とか、『これはすごくいいプレーですよね』とか。そうすると、結構みなさんに理解していただけるんです。

——対人トレーニングの中で、複数という状況はあり得ますか?

 もちろん、あり得ます。まず、シチュエーションでテーマを設けた『1対1』のトレーニングをします。それを最低2つ、3つぐらいやったうえで、その状況が出やすいようなグループの対人トレーニングをします。すると、できない子どもがでてきます。その子どもには、『さっきやった1対1のテーマが出てきたよね。でも、2対2になったらできなかったね。どうしてだろう? 』と問いかけます。問題が解決してスムーズにプレーできるようになったら『さっきのところがつながったよね』って、2対2でもやれるように指導していきます。2対2なので、さらにコミュニケーションが加わる。

 これって、日本サッカーの課題だと思うんですが、グループでの対人練習でのコミュニケーション能力が低いんですよ。オシム時代からよく『ボールも人も動くサッカー』と言われていますけど、なかなか動かない。だからゴールデンエイジからでも、コミュニケーション能力、いわゆるインプットの部分はトレーニングに取り込めるんです。

——なるほど、インプットの問題なんですね。

 はい。コミュニケーション力がいまの子どもは足りないので、共通のワードを提示してあげるんです。こういう状況ではこの言葉で、こういうコミュニケーションをとろうと。

——コミュニケーション能力って、単純に『声を掛け合う』ということでしょうか?

 自分のやりたいプレーを主張することだったり、相手を助けるために声を発することだったり、そういったところですよね。前から自分にディフェンスがつきました。相手はプレッシャーをかけてくるから、前向きにボールが持てない。だから、体を使ってスクリーンでボールを隠す。隠した状況の中で、さらに視野が狭まり、ボールを進められない。その状況の中でサポートが入るとします。その場合にボールを渡すには、スクリーンをしながらドリブルしている人のボールを持っていく、あるいはボール保持者がヒールで渡すというプレーが考えられます。お互いの意志がうまく合わないと、ボールを受け渡す途中でギクシャクしてスピードアップできません。

——そういったコミュニケーションも教える時代なんですね。

 私たちが幼いころ、公園で遊んでいた時代はコミュニケーションを自然に図りながらみんなで楽しくサッカーやったり、ドッジボールしたり、いろいろとワイワイやっていました。でも、いまはサッカースクールに来てコーチから習って。子どもを見ていると、ほとんどコミュニケーションをとる声を発していない。中学生の現場へ行くと、選手同士で話をしている姿なんか見ないんですよ、レベルが高くても。だから、『ゴールデンエイジからコミュニケーションを図る練習』をフィジカルトレーニングの中でつけてあげなきゃいけないのかな? ということも感じます。

 コーチの方々は、ゴールデンエイジはスキルが伸びる段階だから、ドリブルやキックなど個人の技術的な部分を強調して指導するんですよ。個人を見れば、スムーズにドリブルをできる子どもは多いんです。ドリブルがうまい、コントロールがうまい子は評価されるから。でも最終的には、もちろんそれを持ったうえで、コミュニケーション能力やインプットの部分である判断力をつけてあげないといけない。本当はドリブルをしてはいけない場面でドリブルしてしまう子どもがたくさんいたりだとか…。『判断力』と『コミュニケーション能力』を高める作業も必要になってくるんです。高校生を教えていて『高校生になって、こんなことをやらなきゃいけないのかなか?』って思う時もあります。『判断力』や『コミュニケーション能力』の部分は神経系の1つの要因なのでインプットと考えたら、本当は小学生の内から必要なんですよね。

——コミュニケーションには会話が必要だし、言葉の意味や重要性も大事になります。そう考えると、『育成』は人間教育が切っても切り離せません。やはり昔と違うから『いまの時代の子ども』に合わせて指導しないといけないものなのでしょうか?

 そうだと思います。

——2か月ぐらい前に、J2の試合を観戦しました。「東京ヴェルディ1969×FC東京」だったのですが、ヴェルディの選手は下部組織出身の選手が多く、すごく若かくて技術レベルも高かった。1点先制したのですが、その後、東京のプレッシャーに押しつぶされて1点を守りきれず、最後はゲームを支配されていました。サッカーという視点でゲーム運びや個人のプレーに意外性やダイナミックさ、あえて途中のパスを省くような老獪さのようなものがもの足りないように感じました。

 僕も数人かかわっている選手がいるんで、ヴェルディも東京も。A代表なんかを見ると、高校生出身の選手が多いんですよね。Jリーグが誕生して18年以上、下部組織のクラブが発足して時間が経っているのに。本来、いまの代表チームにはクラブ出身の選手がもっと多くなくてはいけない。エリートが集まっているので、出てきてもおかしくない。

 高校の先生と話をすると、『やっぱり人間教育的な部分を、高校生年代でしっかり詰めてないから、(クラブの子どもたちは)ゆくゆく伸びない』ってみなさんおっしゃいます。サッカーは技術や戦術だけを教えたらいい訳ではなくて、もちろんフィジカルもですけど、総合的に『人としての成長を促す』ようなものの、1つの媒体として『サッカーがある』という認識をしておかなくちゃならないのかなと思います。

 指導者養成の中で、体の発育・発達の中では『この年代の指導はこうですよ』って伝えるだけではね…。昔はそれがメチャクチャで、子どもたちにうさぎ跳びをさせたりとか、非科学的なことがたくさん日本の現場にあって、それが整理されたのはいいけど、今度は整理したことで狭くなってしまった部分も実際あるかもしれない。『こうあるべきだ!』という狭さを作る。その年代の指導はドリブルだけやればいいとか。だから、コミュニケーション能力だったり、人間的な教育だったりとか、それぞれのカテゴリーに合った総合的なアプローチをもっとしなきゃいけないかもしれないです。

※最終回は【サッカー選手は質の高い万能型】です

山本 晃永 (やまもと あきひさ)
1967年生まれ。神奈川県出身
法政大学を卒業後、アメリカとイギリスへ渡ってトレーナーの資格を取得。帰国後は東京ヴェルディ1969やベガルタ仙台のフィジカルコーチ、U-15・16・17サッカー日本代表のアスレティックトレーナーを務め、2003年に「Y’s Athlete Support Inc.」(http://ys-athlete-support.com/)を設立。ジュニア・ユース世代のトレーニングを中心に指導をする傍ら、JFAやスポーツ系専門学校で講師としても活躍中。雑誌連載や著書など多数

【資格】
全米アスレティクトレーナー協会公認アスレティックトレーナー
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
日本スポーツ教育協会公認ジュニアサッカーメディカル&フィジカルサポーター

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