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幼いころから戦術眼を養う必要性

ボールテクニックが先か、戦術が先か
 
 昨日は、午前中は所属するシニアクラブの練習試合、午後はJ3「SC相模原×U-22選抜」の観戦と慌ただしい、でも、楽しい一日をすごました。約1か月半ぶりの相模原ギオンスタジアムは、相変わらずのどかな雰囲気に包まれていました。
 
 現在、中位に甘んじているSC相模原。6/8に首位の町田に敗れて以降、天皇杯を含めて4連敗と歯車が狂っている状態です。何が原因でチームがうまくいっていないのかを確かめようと、目を凝らして見ていました。5分ほど観察して、いくつかの問題点に気づきました。今回は、焦点を一つに当てて書き記します。
 
 試合前、マッチデープログラムに目を通した時に、とても印象的だったのが「天皇杯は別にして、リーグ戦で3連敗した試合は順位的にも上位の相手でした。彼らはチームとしての役割がはっきりしていた…」と、ベテランの高原直泰選手が最近の感想を語っていたことです。
 
 その言葉通り、この日の試合も個々の役割の曖昧さが目立っていました。
 
 原因になっていたのは、両サイドハーフのポジショニングの粗さです。攻撃時も守備時もボールの動きに目を奪われながら大雑把にサイドハーフがいるべきエリアに戻っていました。問題なのは、攻守の切り替えにおいて素早く自分のポジションに戻ることが習慣化されていないこと。それと、ボールばかりに目を奪われて視野が確保できていないうえに、適切なポジションを取れないことです。これではチームの秩序が保てないし、正確な状況判断が下せません。
 
 この点は、特に攻撃時に大きな影響を与えていました。
 
 例えば、自陣でボールを奪い返し、DFもしくはダブルボランチがボールを持った時、攻撃に幅をもたせるべきはずのサイドハーフがワイドに開いたポジションにいないのです。最前線のギリギリに立ってDFラインの裏のスペースを狙っていたり、センターバックやボランチとサイドバックの間にポジションをとったりと明らかにポジショニングミスを犯していました。
 
 DFやボランチからすれば、パスの出し所がDFラインの背後しかないし、そもそもセーフティエリアであるはずのワイドなポジションにサイドハーフがいないわけですからゲームメイクにも弊害が出てきます。さらに、センターバックとボランチからサイドバックへのつなぎ役として低い位置にポジションをとっていたりするので、サイドバックがその先にあるセーフティゾーンでボールを持っても自分の前にサイドハーフがおらず、パスの選択肢が一つ少ないのです。
 
 こうなると当然、ベテランで気が利く高原選手がその役割を務めようとサイドに流れたり、ポジションを後ろに下げたりせざるを得ません。結果的に、クサビが入らないため、相手の守備を中央に寄せることができないうえに、サイドにスペースも作ることができないのです。
 
 先日、スペインで活躍する指導者の坪井健太郎さんの実践講義に参加した際、「フエゴ・インテリオール」という“ゴールに近い真ん中エリアでのプレー”の重要性を語られていたのですが、まさにこの概念が希薄な試合、特に前半はそうでした。
 
 さすがに後半は攻撃の幅をもたせるため、木村監督が両サイドに動き過ぎないように指示を出したのか、動き過ぎを抑制していました。それで個々の役割が明確化し、ボールの流れがよくなって2点を取り返すことにつながりました。前半、窮屈そうにプレーしていた高原選手も、自身が得意とする「フエゴ・インテリオール」で存在感を発揮し、攻撃の起点として活躍の機会が増えていました。
 
 攻撃において「フエゴ・インテリオール」は最短距離でゴールを狙えるプレーだということです。ですが、そこにボールを運ぶことができなければ、意味はありません。この試合の前半、SC相模原のサイドハーフが自らで問題を解決できなくて残念に感じました。その問題とは、具体的に「動き過ぎ」によって自らの定位置を見失っていたことと、それによってサイドハーフの役割も見失ったことです。
 
 ここでもう一つだけ、日本人が「フエゴ・インテリオール」を行うために覚えなければならない戦術があることにも気づきました。それはボールをもらおうと動き出し、もらえなかった場合に自らの適切なポジションに戻るという作業です。このポイントは重要です。なぜなら、日本人選手は動き出してアプローチした後に成功すればそのままプレーを続行できるのですが、失敗に終わった時にその場に停滞したり、その流れでボールにより過ぎてしまったりしているからです。それが「ゴールを狙うために効果的なスペースをつぶす」ことにつながっていることに気づいていないのです。
 
 私自身もあらためて攻守における「センター」と「サイド」の深い関係性を認識できた試合になりました。坪井さんはフエゴ・インテリオールが、結果としてサイドのスペースを作ることにもなると言っていましたが、本当にその通りです。残念だったのは、自らのポジショニングミスがゲームメイクの弊害になっていることを、Jリーガーが認識できずにプレーしていたことでした。
 
 育成年代では、ボールを扱うテクニックを先に指導しているのが一般的です。スペインでは戦術も幼いころから教えていますし、ドイツも同様です。今の日本で「ボールテクニックが先か、それとも戦術が先か」ということが問題にすらならないのは、指導者たちがみんな「ボール扱いを教えてから戦術を教える」と思い込んでいるからです。果たして本当にそうでしょうか。幼稚園児のトレーニングで、いきなり3対3をやらせてもいいのではないかと、私は思います。
 
文=木之下 潤(Kinoshita Jun)
 

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