日本サッカーを多角的に捉え、文化として根づかせよう
世界のサッカー先進国に追いつくために何をすべきか…
すべての人に取材で得た”サッカーの知”を公開します!

サッカー解説者・川添孝一 〜其の壱〜

【特別インタビュー サッカー解説者・川添孝一氏】

『なでしこジャパン』が世界一に輝き、女子サッカーが注目を浴びている。ワールドカップ後に、神戸ユニバー記念競技場で開催された「INAC神戸レオネッサ×湯郷Belle」では、リーグ史上最多となる2万1236人のファンが駆けつけ、なでしこフィーバーぶりが伺えた。一方、男子の日本代表も8/24に発表された世界ランキングで15位とアジアトップをキープ。日本サッカー界はこれまでにない勢いで、男女ともに9月からロンドンオリンピックやワールドカップのアジア予選に臨む。

 そこで、代表戦のピッチ解説などでおなじみのサッカー解説者・川添孝一氏に突撃インタビュー。男女の好調の要因や課題、今後のサッカー界について「なでしこジャパン」「サムライブルー」「育成」という3テーマで話を伺った。第一弾は『なでしこジャパン』。世界制覇のポイントや女子サッカーの魅力を熱く語ってもらった。

【第一回 なでしこジャパン】

ワールドカップ制覇、そのワケは『女子力』にあり!


——いま『なでしこジャパン』が大いに盛り上がっています。正直ワールドカップで優勝できると予想できましたか?

「いやー、まったく思っていなかったですね(笑)。予想もできませんでしたが、実は佐々木(則夫)監督が帝京高校時代の先輩で『すごく、おもしろい』って言っていたんです。エースのMF澤(穂希)からもそう聞いていたし」

——ワールドカップの大会前にですか?

「詳しくは、北京オリンピックから帰ってきたタイミングです。なでしこのメンバーは仲がいいんで、事あるごとに打ち上げをやってるんですよ」

——佐々木監督は北京オリンピックの段階で、チームに手応えを感じていたんですね。

「大会前から『ベスト4を目指す』と宣言して、本当にベスト4までたどり着きましたからね。ただ、選手はメダルに手が届かなかった悔しさがあって、監督と一緒に『世界一を目指そう』と団結したみたいです。で、今回の優勝という信じられない結果につながった」

——ただ、やっぱり優勝は…

「準々決勝のドイツ戦に勝ったのは大きかった。前回大会の優勝国ですから自信になったと思います。流れを見ていると勝つ雰囲気はありました」

——ドイツ戦もそうですが、大会中は試合を重ねるごとにチームとしての成長・成熟がハッキリ見てとれましたよね?

「そうですね。普通、優勝するレベルのチームだったら予選のイングランド戦は控えメンバーを積極的に使うと思うんですよ。予選通過も決まっているし。でも、ドイツとの対戦を回避したいがために、ガチで勝ちにいったら力負け。逆の意味で運のよさがありましたよね、敗戦で選手たちの目が覚めたというか。私たちは引いて守りに入ったらダメなんだ。粘り強さや自分たちのパスサッカーを貫かないとダメなんだと」

——帰国後のテレビのインタビューでも、澤選手をはじめ、多くのメンバーがイングランド戦をターニングポイントと指摘していました。選手間で話し合ったり、ベテランのGK山郷のぞみ選手がカツを入れたみたいな。

「結局、自分たちにはまだ力が足りない、やるべきことをやんないとダメなんだ。それがボールへのよせだったり、激しさだったりにつながったんだと思います」

——イングランド戦以降、ゴールというか、得点力も目立ちました。そのあたりも女子サッカーの魅力ですか?

「『ゴールが決まる!』という点は女子独特ですよね。特質というか、守りに入ることはないですもんね。日本だけでなく、対戦相手も含めてどっちも攻撃にいくというか、打ち合いというか。男子と合わせて見てもワールドカップ史上、最高の決勝戦でしたよ。普通はアメリカも守りに入る。また日本もあきらめずに攻めるでしょう。ドイツもそうでしたが、どの国もドンドン攻めるから。やっぱり女性の底力を感じますよ。困難に立ち向かう姿勢というのはすごい。『今大会は、女子スゲー!』ですよ(笑)」

——確かに、女子力みたいな(笑)

「そうそう、あんな試合をやられちゃったら、男子ワールドカップの準決勝や決勝はもう見られないですよ(笑)。男子の場合、準決勝から本当に攻めないもん。前に行くとカウンターをやられるから」

——リスクを恐れない姿勢は、女子特有のものかもしれません。

「もう1つのポイントは、日テレ・ベレーザ出身の澤や大野忍が『ジョージ与那城さんやラモスさんたちがプレーしていた読売(サッカークラブ)の古き良き時代のパスサッカー』を知っていたこと。きっと、その影響も受けたから(パスをつなぐ)あのサッカーがやれたんでしょうね。『えっ、そことそこをつなぐの?』というパス交換をやっていたから。最後まで、選手を信頼した監督はやっぱり評価していいと思います。本当に、各試合の中で(ブラジル出身のジョージさんやラモスさんが影響を受けた)1970年代の質の高いブラジルのサッカーが随所に見られましたよね。それこそ、読売が目指したようなサッカーです」

——そうかもしれません。1980年代の日本リーグの古き良きにおいがする読売のサッカー。決勝で2点目を取られたら『もう追いつけないかも?』という気持ちが生まれますよね。

「ハハハ、もうマンガの世界(笑)。でも『勝つんだったらPKしかないよね』っていう雰囲気はありましたよ。絶対にあきらめない気持ち、疲れていてもミスをしない高い技術力…日の丸を背負う重み、誇りが伝わってきました」

——最後まで「パスサッカーを貫く」という意識はすばらしいものがありました。

「特にメキシコ戦なんか、完璧でした! 相手とのかけひき、運動量、高い技術力、見ていてワクワクしましたもん」

——あれは男子にもほしいですよね。そのあたりはどうですか?

「んー、難しい面もあるけど、目指してほしいよね」

——パスサッカーをやった結果、スウェーデン戦の1点目なんかは失点につながりましたけど、それでも自らのスタイルをやり通す精神力は強いなと感じます。そのあたりで、佐々木監督の手腕はどうでしょうか?

「帝京高校のユニフォームが黄色になったのは、ブラジルがワールドカップで3回目の優勝(1970年メキシコ大会)を飾った時からなんですよ(笑)。その当時のブラジルサッカーに近い感覚を見せてくれたのは非常に楽しかったです。スローだけど、相手がボールを奪いにきたらパスでいなしてしまう。逆に取りにいかなければドリブルを仕掛ける。何度でもパス交換するし、最後には相手が疲れちゃう」

——やっぱり最後までやり抜く、やり切る力というのは日本人の特徴ですかね?

「間違いないですね!」

——女子も海外への移籍話が持ち上がって、いまも欧州組が数人います。

「オファーはあるだろうけど、このタイミングではしないんじゃないですか? 『何とか、なでしこリーグを盛り上げたい!』という気持ちがあるから。それに、本人たちも『ココでやらなきゃ!』という思いもあるだろうし。海外組という点では、FW永里優季とFW安藤梢がチャンピオンズリーグを経験しているのはすごいですよ」

——いよいよ、ロンドンオリンピックの予選が始まります。最後にひと言!

「世界一になって追われる立場だからマークが厳しくなるし、本当に大変だと思います。引いた相手に対して、どうゴールを奪うかが勝敗のポイントの一つになります。日本人の『女子力』を見せて、がんばってほしいですね」

※【第二回 サムライブルー】は9/5(月)にアップします


川添孝一川添 孝一(かわぞえ こういち)
1961年7月4日生まれ。鹿児島県出身。
1980〜1985三菱重工業サッカー部/ポジション FW
帝京高校時代の1979年に、名取篤(元日本代表選手)らと全国高等学校サッカー選手権大会に出場して優勝。5ゴールを挙げて得点王に輝く。卒業後は名取と共に、日本サッカーリーグ1部の三菱重工業サッカー部(現浦和レッドダイヤモンズ)でプレーをするが、1985年に24歳で現役を引退。その後は高校時代からの友人である木梨憲武の誘いもあり、サッカー解説者などメディアで幅広く活躍。指導者として後進の育成にも積極的にあたっている

取材・文=木之下 潤(Kinoshita Jun)

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